皆さんこんにちは、台湾音楽ノート執筆者のJJです。2020年12月16日、滅火器 Fire EX.が4年ぶりとなる日本向けニューアルバム『UNSUNG HEROES』をリリースしました。前作『REBORN』を2016年6月8日に発売して以来の日本向けアルバムのリリースとなります。
このアルバムは、2019年12月10日に台湾でリリースされた滅火器 Fire EX. の5枚目のアルバム『無名英雄 Stand Up Like A Taiwanese』の日本版の位置付けでもあります。『REBORN』が2016年3月25日に台湾で先行リリースされた後に、数曲を日本語版としてアレンジし、日本向けにリリースされた当時の流れと大きくは変わらないでしょう。
本作品は滅火器 Fire EX. のデビュー20周年を記念するアルバム。メンバーが影響を受け、憧れ、そして常に意識してきた日本の”先輩バンド”との共作も含む14曲は、ますます力を入れていく日本マーケットに対して強烈なメッセージを発することでしょう。
収録内容概要から曲解説、歌詞和訳情報、アルバム名に込められた想いまでをまとめたいと思います。
目次
- 1 『UNSUNG HEROES』収録曲一覧
- 2 日本のアーティストとのコラボレーション
- 3 収録曲解説(歌詞和訳リンクはこちら)
- 3.1 1. The Light feat. 後藤正文
- 3.2 2.Stand up Like a Taiwanese
- 3.3 3.Revolutionize the Disgusting Life
- 3.4 4.City of Sadness
- 3.5 5.1945
- 3.6 6.Cycle of Freedom Soul
- 3.7 7.Juvenile
- 3.8 8.海の風 feat. 磯部正文
- 3.9 9.K2, We Too
- 3.10 10.California Dream
- 3.11 11.12月の君へ
- 3.12 12.Liberal Sailboat
- 3.13 13.夜行バス
- 3.14 14.Keep On Going (Japanese Ver.)
- 4 アルバム名に込められた想い
- 5 アルバム購入特典
『UNSUNG HEROES』収録曲一覧
本作品は全14曲を収録しており、台湾語、台湾華語(中国語とも言う)、日本語、英語の4つの言語から構成されるアルバムです。原盤『無名英雄 Stand Up Like A Taiwanese』は日本語を除く3言語で構成されていました。また原盤では10曲が収録されていましたが、本作品ではそれらに加えて《The Light feat. 後藤正文》、《海の風 feat. 磯部正文》、《夜行バス》、《Keep On Going (Japanese Ver.)》の4曲が収録されています。また、《12月の君へ》のみ、原盤とは異なる言語(台湾語→日本語)で歌われています。
# | 曲名 | 備考 |
1 | The Light feat. 後藤正文 | 日本語、一部英語、ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文氏とのコラボ |
2 | Stand up Like a Taiwanese | 台湾語、アルバム『無名英雄』の《無名英雄》と同じ |
3 | Revolutionize the Disgusting Life | 台湾語、アルバム『無名英雄』の《生活革命》と同じ |
4 | City of Sadness | 台湾華語、アルバム『無名英雄』の《雙城記》と同じ |
5 | 1945 | 台湾語、アルバム『無名英雄』の《一九四五》と同じ |
6 | Cycle of Freedom Soul | 台湾語、アルバム『無名英雄』の《百年追求》と同じ |
7 | Juvenile | 台湾語、アルバム『無名英雄』の《少年家》と同じ |
8 | 海の風 feat. 磯部正文 | 日本語、《海上的人》(原曲は台湾語)をHUSKING BEE磯部正文氏が日本語でコラボ |
9 | K2, We Too | 台湾華語、アルバム『無名英雄』の《海島冒險王》と同じ |
10 | California Dream | 英語、アルバム『無名英雄』の《新歌五號》と同じ |
11 | 12月の君へ | 日本語、アルバム『無名英雄』の《十二月的妳》と同じ |
12 | Liberal Sailboat | 台湾華語、アルバム『無名英雄』の《海島冒險王》と同じ |
13 | 夜行バス | 日本語、原曲は台湾語の《長途夜車》 |
14 | Keep On Going (Japanese Ver.) | 日本語、原曲は台湾語の《繼續向前行》 |
日本のアーティストとのコラボレーション
コロナ禍でライブも十分に行えない時期が続いた2020年6月、Youtubeでの配信生ライブを立て続けに実施した滅火器 Fire EX.。その中で、本来であれば日本でライブを夏に実施する計画があったこと(もともと2020年2月に台湾の北中南(台北、台中、高雄を表す言葉)で行われた原盤『無名英雄』のリリース記念ライブで言及済みではある)に言及したほか、日本向けに新曲を制作していると発表がありました。
その後、8月12日にはGotchことアジカンの後藤正文氏が「香港のことを思って、台湾のバンドと一緒に曲を作ってる。とても意味のあることだと思う。」とTwitterに投稿しています。
香港のことを思って、台湾のバンドと一緒に曲を作ってる。とても意味のあることだと思う。
— Gotch (@gotch_akg) August 11, 2020
日本の台湾音楽ファンからは、当初からおそらく滅火器 Fire EX.とのコラボだろうと噂がされており、本作品にてようやくその共作が《The Light》という新曲でお披露目されました。
また、HUSKING BEEの磯部正文氏とのコラボレーションは、前作『REBORN』に続き、日本語版の作詞と、実際に歌唱を担当する形で実現。《海の風》(《海上的人》の日本語版)では日本語歌詞を担当するほか、実際に歌で参加しており、これは前作1曲目《残像モーション》でのコラボレーション以来、4年ぶりとなります。また、《12月の君へ》(《十二月的妳》の日本語版)、《夜行バス》(《長途夜車》の日本語版)、《Keep On Going (Japanese Ver.)》(《繼續向前行》の日本語版)でも日本語歌詞を担当しています。
ちなみに、11月4日にリリースされたHUSKING BEEのニューアルバム『eye』に、滅火器 Fire EX.のメンバー全員がコーラスで参加しており、引き続き日台の双方向のコラボを実現しています。
11/4 リリースアルバム「eye」に、
— HUSKING BEE (@huskingbee_info) October 23, 2020
Fire EX.のメンバーにコーラスで参加していただきました!
ありがとうございます!! https://t.co/W8yVlqdccz
収録曲解説(歌詞和訳リンクはこちら)
1. The Light feat. 後藤正文
本作品で初収録となる《The Light feat. 後藤正文》は、『UNSUNG HEROES』唯一の完全新曲。前作『REBORN』に続き、日本が誇る大物アーティストとのコラボレーションが実現しました。先述の通り、8月頃からTwitter界隈で噂されていたGotchことアジカンの後藤正文氏との共作です。
2019年に香港で起こった運動「反送中」を契機に、滅火器とGotchのコラボは始まりました。台湾、香港だけでなく、2020年、世界中で困難に立ち向かっている全ての人に贈る曲だと、公式FBで記しています。
〈The Light〉滅火器ft.後藤正文(AsianKung-FuGeneration),因反送中運動契機而迅速決定合作。希望將其中的正向訊息獻給不只台灣、香港,也獻給2020遭遇困難的所有國家與人們。#後藤哥的twitter預告#沒錯就是這個令人激動的合作
https://www.facebook.com/FireEX/posts/10158863930630539
歌詞の中には以下のようなフレーズがあります。
「僕らは過去から何を学ぶ 君は現在に何を描く 未来は僕らの手の中」
曲中では、台湾や香港で過去に起こった学生運動を題材としたフレーズが使用されています。一人ひとりの小さな行動が大きな力となり、つながり、変化を生んでいく。それこそが東アジアにおける困難な時代に立ち向かう上での光(The Light)になるのだと。過去の経験や知見を以って、今何を目指すのか。未来はいつだって僕たちが作り出すんだというメッセージです。
ちなみに、台湾語/台湾華語を含まない日本語曲で、完全な新曲(過去の滅火器 Fire EX.の曲のカバーではなく)はこの曲が初めてとなります。台湾語を含む場合の完全新曲としては、2019年にリリースしたBrahmanとの共作《兼愛非攻》が初です。
※2019年にはTOTALFATとのコラボ曲として《We’re Gonna Make a Bridge ft. Fire EX. Sam》がリリースされていますが、これはTOTALFATの楽曲にSamが参加した、と言った方が正しいでしょう。
《The Light feat. 後藤正文》の詳しい歌詞解説はこちら
2.Stand up Like a Taiwanese
原盤『無名英雄 Stand Up Like A Taiwanese』のタイトル曲でもあるこの曲は、元々は『國際橋牌社 Island Nation』という台湾ドラマの主題歌として制作されました。1990年以降の台湾の政治を取り巻く様子を取り上げたドラマは、1987年に戒厳令解除を受けた台湾が、自由民主へ突き進んでいく様子を描いています。「無名英雄」とは何か。当初の英語タイトルは「Stand Up Like A Taiwanese」(=台湾人らしく立ち上がれ)ですが、元々の意味は「名もなきヒーロー」であり、本作品のタイトル「UNSUNG HEROES」はまさにこれを指します。公式Youtubeには以下のメッセージが記されています。
1990年代,台灣民主化狂飆的道路上,促成這場不流血革命的成就,是每一個在自己的角色上盡最大努力的人。 台灣的民主故事,不是由單一英雄角色或少數人所撰寫,而是島嶼上每個爭取自由民主、尊嚴生活的台灣人。
https://www.youtube.com/watch?v=4BSrL_pH8hA
(日本語訳)1990年代、台湾民主化へ向けた険しい道のりで、この血のない革命には、それぞれの役割を以って最大限に努力した人々の姿がありました。台湾民主化のストーリーは、一人の英雄や少数の人々によって書かれているのではなく、この島で自由、民主主義、尊厳を求めて争う全ての台湾人によって描かれるのです。
歌詞中では以下のように歌い上げられています。
「佇上䆀的時代做上媠的夢 就愛跤踏實地 人咧做 天咧看 天公伯啊 你著保庇我 Let me stand up like a Taiwanese」
(日本語訳)「この最も悪い時代に 最も美しい夢を見る 地に足をつけて 周りが見ていなくても 神様は見ているんだ ああ神様 あなたが僕を守ってくれている 台湾人よ いまこそ立ち上がろう」
この曲が伝えたいこと。それは「毋顧一切 向前衝」(日本語:一切を顧みずに 前へ突き進もう)。
《Stand up Like a Taiwanese》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
3.Revolutionize the Disgusting Life
原盤では《生活革命》という曲名であるこちらの曲は、英語よりも漢字で見たほうが曲のイメージはつきやすいかもしれません。「あらゆる困難に立ち向かおう 生活の一日一日は革命のようなものさ」と、原盤リリース時にボーカルのSamが話している通り、この曲が伝えたいことはサビのワンフレーズに込められた以下でしょう。
「我欲徛起來 面對所有的阻礙」(日本語:俺は今立ち上がる あらゆる困難に立ち向かう)
過去のFB投稿で言及していますが、この曲の最初の2フレーズは、Samが作詞した当時の彼の不安定な心情を表しています。
「最近我感覺整個人疝疝 感受到自己的失敗 我好像隨時都會爆炸 脾氣無法度按耐」(日本語:近頃感じる みんなきまりが悪いな、自分の失敗を引きずっているのか まるでいつも爆発しているようだ、この気性はどうにもならない)
《Revolutionize the Disgusting Life》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
4.City of Sadness
原曲は《雙城記》としてリリースされているこの曲は、2つのストーリーに対するメッセージが込められています。元々2019年3月に滅火器 Fire EX.がこの曲を書いた時は、戦後の台湾を恐怖の白色テロへと追いやった二二八事件に関するメッセージだったといいます。曲名「City of Sadness」とは悲しみの街ですが、これは1989年、戒厳令が解除されたった2年の台湾で公開された二二八事件から戒厳令期間を描く映画「悲情城市 A City of Sadness」のことを指しています。また、この曲のアウトロの壮大なメロディは、この映画のサントラを引用しているそうです。
もう1つ、2019年に世界中で取り上げられた香港における重要な問題に対してのメッセージも含みます。2019年6月、香港で逃亡犯条例改正という、香港にとって看過できない問題が発生し、「反送中」デモが繰り広げられました。70年たった今、当時の白色テロに見る中国の無慈悲な支配が、今まさに香港を飲み込もうとしている。そんな中、2019年6月に香港の有名な作詞家「林夕」と出会い、このコラボレーションが実現しています。曲名の漢字表示は《雙城記》。意味は2つの都市のストーリーです。台湾と香港、2つの都市で起こる悲しみのストーリーを描いたのです。
なお、MVは2019年に起きた香港での「反送中」と呼ばれるデモの映像が使われているため、Youtube上でしか見られない制限がかかっています。以下のリンクからご覧ください。
《雙城記》の詳しい歌詞解説/和訳/拼音による発音解説はこちら
5.1945
原盤では《一九四五》としてリリースされているこの曲は、もともとは2018年12月にシングルとしてリリースされている曲です。1945年、第二次世界大戦で日本は敗北し、統治した台湾から撤退します。実は台湾は大きな被害も受けていました。多くの日本人は知らないかもしれませんが、アメリカ軍による空襲を台湾は受けており(その時は台湾ではなく日本(の一部)として空襲を受けている)、その最大の被害地域が高雄でした。戦時中の高雄の人々の想いを詞にし、情緒的に歌い上げたこの曲を是非一度聞いてみてください。
なお、MVの映像は、この曲がテーマ曲として採用されているボードゲーム『高雄大空襲 Raid on Takao』のテイストを反映しています。
《一九四五》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
6.Cycle of Freedom Soul
原盤では《百年追求》というタイトルのこの曲には、「長年の追求は何度も繰り返す 自由の魂は至る所で開花する」というバンドからのメッセージが込められています。二二八事件以降の白色テロの時代には、国民党政府から言論弾圧を受け続けた台湾人ですが、その中でも民主自由への想いを雑誌、地下ラジオ、街頭演説など、様々な形で表現してきました。この曲は、そんな民主化へ尽力された先輩方への敬意であると、公式FBで過去に語っています。
アニメを使ったMVは、戒厳令下の台湾の様子をよく表しており、言葉が分からなくても、過去に台湾でどんなことが来ていたのか、十分に理解できる内容となっています。歌で民主自由へメッセージを届け続ける滅火器 Fire EX.は、当時の手法とは違えど、まさに「長年の追求は何度も繰り返す 自由の魂は至る所で開花する」を体現していると言えるでしょう。
最後にこう締めくくります。「獨立的道路你我同齊」 独立への道 俺たちと一緒に、と。
《百年追求》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
7.Juvenile
原盤では《少年家》という曲で、意味は「若者」です(この漢字表記は台湾語の漢字表記)。「未来は君のものだ 戦おう 若者よ」というメッセージをもつこの曲は、台湾の若者に対する強い訴えかけを表しています。才能に満ち溢れた若者の、目の前に困難が待っている人生に対して、ボーカルのSamが当時若かった自分にどんな言葉をかけたら良いのかと考え作詞したそうです。
「欲按怎改變這个社會」どんな風にこの社会を変えたいのかを
「講出你的理想」理想を話してみよう
「因為未來的世界是恁的」だって未来は君のものだから
いつだってその国の未来は若者にかかっている、その若者が、未来は自分たちのものだと気づいて欲しい。そんな願いが込められた曲です。MVは、2019年に彼らが手掛けた大規模フェス「火球祭 Fireball Fes 2019」で若者が自由に楽しむ姿が映し出されています。
ちなみにこの曲は元々全く異なるメッセージを伝えたかったようです。詳しくは当時の公式FBの日本語訳をご覧ください。
《少年家》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
8.海の風 feat. 磯部正文
本作品には過去の楽曲の日本語版として3曲が収録されており、その1曲が《海の風 feat. 磯部正文》です。2010年にリリースされた台湾語の名曲《海上的人》の日本語版として、HUSKING BEEの磯部正文氏が4年ぶりとなる日本語作詞+歌唱のコラボを実現しました。前作《残像モーション》では、磯部氏の独特な言葉選びが大変話題を呼びましたが、今回も素晴らしい楽曲となっています。
《海の風 feat.磯部正文》の詳しい歌詞解説はこちら
台湾語原曲《海上的人》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
9.K2, We Too
原盤は《海島冒險王》として、アルバム『無名英雄』がリリースされる半年も前に公開されています。台湾の登山家が世界No.2の標高誇るK2登頂を目指すプロジェクトの曲として、登山家本人からのリクエストに応えて制作された曲。滅火器 Fire EX.には珍しく台湾華語で歌われ、アルバム『無名英雄』では一番人気があるとも言われる曲です。
「這是渺小的一天 也是偉大的一天」(これは平凡な1日だけれど、偉大な1日でもある)という出だしのフレーズが印象的で、目の前にそびえ立つ大きな山に向かって挑戦する姿を描いた曲は、私たちの生活に置き換えれば、何か大きな挑戦をするときと重ねるとわかりやすい曲です。
「我來自一座海上的島嶼 島上住著我勇敢的母親」(俺は海の上の島から来たんだ 島には勇敢な母が住んでいる)
これは、ボーカルのSamが、登山家のお母さんのインタビューを見て書き出した詞ですが、やはり偉大な母はいつだって子供に勇気を与えてくれる最大の源なのだと気づかされる素晴らしいフレーズだと思います。我々日本人も海の上の島に生きる人。自身を重ねて聴いてみてください。
《海島冒險王》の詳しい歌詞解説/和訳/拼音による発音解説はこちら
10.California Dream
2019年8月、滅火器 Fire EX.は原盤『無名英雄 Stand Up Like A Taiwanese』のレコーディングのために2週間カリフォルニア州ロサンゼルスに滞在しています。彼らはロスでのレコーディングは夢であったと、過去にインタビューで語っていますが、現地でオフの時間を過ごす中で、カリフォルニアにレコーディングに来ている時の気持ちを歌にしておきたいとボーカルSamが考え、この曲は制作されました。「カリフォルニアドリーム」とは、日本でもよく言われる言葉ではありますが、「現地で大きな夢を掴もうと果敢にチャレンジする人がいる一方で、夢破れる人もいる。でもカリフォルニアにはいつも変わらないものがある、来れば帰りたく無くなる場所。カリフォルニアドリームに生きるってそういうことさ」と語りかけます。
ちなみに、歌詞カードには作詞にAndrew Watson氏の名前がありますが、これはSamが曲を作ろうとした際に英語に不安があり、旧知の友人であるAndrew(2008年にニューヨークで知り合ったとのこと)に協力を依頼したのだとか。
MVではカリフォルニアでのレコーディングの風景とオフの風景を楽しむことができます。リスナーの皆さんもカリフォルニアドリームを感じてみては?
《California Dream》の詳しい歌詞/和訳解説はこちら
11.12月の君へ
この曲の原曲は《十二月的妳 A One and A Two》という台湾語の曲で、原盤アルバムの中では一二を争う人気曲です。曲自体は2018年4月に書かれたそうですが、当時日本の辻仁成の映画「サヨナライツカ」と楊德昌の「一一」を見て、歌を書こうと思ったそうです。2つの映画に共通することは、「無念」と「美しい秘密」で、過去の女性のことなんかを考えながら書いたのだとか。MVもとても精巧に作られていて、曲のストーリーがよくわかります。
今回の日本語版《12月の君へ》は、原曲の台湾語の歌詞の意味に比較的近い形で歌われています。
《12月の君へ》の詳しい歌詞解説はこちら
台湾語原曲《十二月的妳》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
12.Liberal Sailboat
原曲は《航向遠方的船》という名前でリリースされた、台湾華語(中国語)の曲です。この曲は、2015年に台湾で公開された『燦爛時光』というドラマの主題歌でもあり、下記の映像ではSamが役者としても出演している様子がわかります。
2枚目のアルバム以降、毎回1曲はアコースティックギターの曲を入れようと考えてきたようで、この曲を採用することにしたそうです。また、「航向遠方的船」(遠くへ向かう船)というのは、このアルバムの締めくくりには適しているとも考えたのだとか。
台湾は自由へ向かって突き進む船であり、未だゴールへ辿り着いていない。先人たちの意思を受け継ぎ、航海を続け、前に進んでいこう。そう、この曲では語りかけています。
《航向遠方的船》の詳しい歌詞解説/和訳/拼音による発音解説はこちら
13.夜行バス
原曲は、台湾では超が付くほどの人気かつ有名な曲である《長途夜車》という曲。YouTubeでは再生回数が1,300万回越えという大人気曲ですが、夢に向かって地元を離れ、遠くどこかの地で日々奮闘する人たちへ、「あなたを応援している人がいる。辛い時、あなたには帰る道が用意されているんだよ」というメッセージを発しています。
そんな名曲の日本語版として今般リリースされることとなった《夜行バス》。こちらもHUSKING BEEの礒部正文氏が日本語歌詞を手掛けています。比較的台湾語原曲の歌詞の意味や音に近い言葉選びをしてますね。
この曲でもう一つ触れておきたいのは、楽器隊が録り直していることです。全て再録なのか部分的なリマスタリングなのかは不明ですが、ギターがはっきりと聞こえるようになり、また音の粒がしっかりと聞こえるクリーントーンになりました。さらには近年ライブで決まって弾いている壮大なアウトロも、今回初音源化となっています。
《夜行バス》の詳しい歌詞解説はこちら
台湾語原曲《長途夜車》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
14.Keep On Going (Japanese Ver.)
本作品を締め括るのは、2016 年に日本初のアルバム『REBORN』をリリースした際の楽曲《繼續向前行》の日本語版、《Keep On Going (Japanese Ver.)》です。原曲は、目の前の道は決して平坦ではないけれど、勇気を振り絞って前に進み続けようという、力強いメッセージを発信する曲です。MVでは、東日本大地震の被災地でもある岩手県宮古を中心に、東北の様々な場所でロケをしている様子がわかるほか、最後には震災に対するメッセージも組み込まれ、日本人としてはとても感慨深い内容になっています。
こちらもHUSKING BEEの礒部正文氏が日本語歌詞を担当しています。日本語歌詞の内容は、原曲のMVにふられた日本語訳とはかなり異なっており、曲のメッセージも異なってきているように思います。違いは下記の歌詞解説からご覧ください。
《Keep On Going(Japanese Ver.)》の詳しい歌詞解説はこちら
台湾語原曲《繼續向前行》の詳しい歌詞解説/和訳/白話字による発音解説はこちら
アルバム名に込められた想い
ニューアルバム『UNSUNG HEROES』は、およそ1年前に台湾でリリースされたアルバム『無名英雄』の日本版という位置付けですが、実は原盤の英語タイトルは「Stand Up Like A Taiwanese」です。この英語タイトルの違いはどこからきているのでしょうか。「無名英雄」の意味から考えると、正しい英語訳は「UNSUNG HEROES」ですので、むしろ原盤の「Stand Up Like A Taiwanese」はあえてそのようにネーミングしているのかもしれません。
もともと原盤『無名英雄』は、タイトル曲の《無名英雄》をはじめ、自由民主と戦いその地位を築き上げた台湾の歴史や美しさ、台湾人とは何か、台湾人らしさとは何かをそれぞれが考え行動することで今日の台湾は実現しているという誇り、2019年に発生した香港での諸問題に代表される中国の脅威は、「今日の香港は明日の台湾」という言葉に代表される、自国の脅威としても捉えなければならいということに言及したアルバムです。それらは決して一人の英雄によって成し遂げられるのではなく、多くの台湾人の努力によってもたらされるものである、つまり多くの台湾人が台湾人らしく立ち上がろう(=Stand Up Like A Taiwanese)というメッセージになっています。
一見、アルバムを日本向けにリリースするにあたっては「Stand Up Like A Taiwanese」では響きませんので、本来の英語訳「UNSUNG HEROES」にしたとも取れますが、私はもう一つ、このコロナ禍において、表に出ることはないけれども世の中を支え続けている多くの人々の力、つまりそれぞれの「名もなきヒーロー」に対するメッセージを含めていると感じています。「UNSUNG HEROES」は直訳すれば「名もなきヒーロー」。台湾では、蔡英文総統の演説でこの「無名英雄」と言う言葉が度々用いられていますが、その多くは医療関係者であったり、一般市民の日々の協力や努力に向けて使用される言葉です。そうした意味合いを「無名英雄」に持たせるには「Stand Up Like A Taiwanese」よりも「UNSUNG HEROES」のほうがよりメッセージを忠実に表していると思います。
アルバム購入特典
滅火器 Fire EX.の公式Twitter1/FBを通してアルバム購入特典の発表もありました。いわゆるCDショップでの購入特典ではなく、CD内封入の特典となります。以下2つとのこと。
①TM Paint書き下ろし!メンバー似顔絵ステッカー
TM Paintは、日本を中心に様々なアーティストのジャケ写などのイラストを担当するクリエイティブアートレーベル。2019年11月に台湾の桃園で行われた滅火器 Fire EX.主催のフェス『火球祭』ではブースを出店し、台湾人にも広く知れ渡るきっかけを作ったばかりです。
②初の試み!歌詞カードへの白話字表記
白話字の歌詞カードへの掲載は初の試みで、台湾語という非常に難しい言語を、日本人含む外国人が習得する際に使用される、ラテン文字ベースの文字です。本サイトでも台湾語の歌詞を和訳する際には、白話字での発音表記を付けるようにしています。
(注)本ページの日本語訳は全て筆者による和訳となります。公式リリースの和訳とは異なる場合があります。
(注)本稿には歴史や政治など様々な問題に関する言及がありますが、筆者の考えを表すものではありません。また、特定の対象を非難・中傷する意図はありません。